虚羽あすサンプル「上野凛子は友達がいない」


R18作品のため、高校生以下はご遠慮ください。


『誰にも媚びない孤高の秀才』『東大合格間違いなし』。

上野凛子はそう呼ばれた時期があった。高校三年生の頃だ。

しかし十九歳の春を迎えても、彼女は予備校の教室で授業を受けていた。

これには理由がある──大学の入試のとき、最悪なことが起こったのだ。凛子が試験会場である駒場に向かっている時、それは起きた。

「……っ、痛……もしかして、これ……」

凛子を襲った謎の腹痛、それは間違いなく生理痛だった。

あな悲し、大事な場面と生理が重なってしまう女子はそれなりにいる。

だけど凛子は高校入試だって修学旅行だって生理が被ったことはなかった。

それに前回の生理からまだ二週間しか経っていない。だから油断していたのだ。まさか、緊張とストレスで生理周期が乱れてしまうなんて──。

その日の凛子は最悪だった。腹痛に気を取られ、入学試験ではいつもしないようなミスを連発した。

おかげで全国模試で一桁の順位を取ったことのある凛子ですら、三月の頭に不合格の知らせを受け取ることになってしまった。

それから一週間、凛子は泣きに泣いた。孤高の秀才であるからして、高校の人間や予備校の人間に泣き顔を見せるわけにはいかない。

家に引きこもって、ベッドの中でひたすら泣いた。

そして涙が枯れるころ、誓ったのである。

「来年こそ、一番の成績で東大に入ってやる」と。

 

浪人生活は早くも夏の季節に入ろうとしていた。人によっては半袖を着て授業を聞いている。

凛子は寒がりだから、未だ長袖のカットソーのまま授業を受けていた。

彼女が今いるのは、東大選抜クラスと呼ばれるクラスだった。

大教室に三十人ほど集められ、日本史の授業が行われている。

もともと去年合格するつもりだった凛子は、予備校の授業など知識の確認程度にすぎなかった。

新しい何かをインプットするわけではない。

ただ、去年合格するために蓄えた知識を、忘れないようにキープするだけ。

おのずからして、そんな授業は凛子にとって退屈だった。

周りにいるのは、同じように東大に落ちた面子である。ただ去年から東大合格の可能性でA判定を叩き出していた凛子とは違い、背伸びして東大に入ろうという者が多く、皆授業を真剣に聞いていた。

凛子は配られた参考資料の西郷隆盛にヒゲを書き足し、シャープペンシルを指先でくるくる回す。

(あぁ……つまんない)

凛子を支配しているのは、つまらないという感情だけだった。

こんな時どうしたらいいか、彼女はある遊びを知っていた。

「先生、お手洗いに行ってきます」

凛子は挙手し、あるものを持って教室を出た。同じフロアにある女子トイレに入ると、個室のドアを閉める。

ショーツを下ろし、便座に座ると、自分の右手人差し指を少し舐めてから凛子は自分の下半身に手を伸ばした。

濡れた指が当たる部分には、凛子の肉芽がある。まだそこは何の反応もせず、皮に包まれて姿を隠していた。

そこを濡れた指で前後に優しくいじってやる。凛子の頭の中ではその指が理想の異性のものであるかのように妄想しながら、指を動かした。

実際、凛子はまだ処女であった。これまで勉強一筋で、異性との交際はおろか友達もいない。それでも性へのあこがれはあって、暇になるとこうして肉芽をいじくり回すのだった。

「んっ……は、気持ち良くなってきた……っ」

くにくにと動かす指に反応して、凛子の肉芽が少し勃ち始めた。じんわりと体が熱くなって、凛子の息はかすかに荒くなる。

それに伴い、肉芽の向こうにいる秘所から少しずつ湿り気が出てきた。彼女はそれを指で拾うと、肉芽にこすりつけていく。

指との摩擦を感じていた肉芽が、湿り気によってぬるぬるになっていく。摩擦力を持っていた時も気持ち良かったが、粘度のある液体がまぶされた状態で触るのもまた気持ち良い。

凛子の手は触り始めた時よりもスピードが上がっていた。いつの間にか、肉芽を触っているだけなのにくちゅくちゅという水音が鳴りはじめる。

もしこのトイレに誰か来たら、今凛子が何をしているのかすぐにバレてしまうだろう。

授業中のトイレだから誰も来ないはずだが、その背徳感も凛子の秘所を潤す要因のひとつになっていた。

「んっ……ん、は、ぁうっ……」

凛子は気持ち良さのあまり、恍惚とした表情になっていた。トイレの個室に鏡があるわけではないから、自分ではその姿は見えない。この場所に他の誰かがいるわけでもないから、誰も彼女のその表情を見ていない。

凛子は自分を含め誰にも見せたことのない表情をしながら、指で肉芽をこすっていた。その手は遠慮がちに自慰を始めたころとは違い、大胆に動かされている。

指を股座の奥に伸ばして、凛子はさらなる湿り気を肉芽に連れてきた。もうぬるぬるになりきった肉芽は、指で捉えることが難しい。触っても触ってもつるんと逃げてしまい、それがまた快感につながった。

「はうぅっ……気持ちいぃっ……指、止まんないっ……」

気づけば、彼女は随分と前傾姿勢になっていた。トイレの便座に腰掛けながら、お腹を足にぎゅっと近づけ縮こまっている。この姿勢が、凛子の慣れた自慰のポーズだった。

彼女は指の速さをだんだん速めていく。指の腹で肉芽を押して、前後に擦って快感を高めていく。昂ぶる感覚と共に、凛子は息を荒くしていった。

トイレの個室からは、じゅぷじゅぷという激しい水音と共に少女の荒い息が響いていた。狭い個室である、音は簡単に共鳴して、実際に発している音より数倍大きく、凛子の耳には聞こえた。

肉芽を擦る指の速さが限界まで早くなると、凛子はぎゅっと目を閉じた。

(イク……イクっ!)

肩にぎゅっと力が入ったかと思った次の瞬間、凛子の体は弛緩していた。自分で肉芽を擦り、達してしまったのだ。ぼうっとする頭のまま、凛子は前かがみになっていた体を起こし、逆に背中を壁につけるような体勢をとる。

(私、イっちゃった……)

達したことに対する背徳感はなかった。ただ他の者たちが授業を受けている間、自分だけがこんな楽しみをしていることが面白くてたまらなかった。

凛子は上がった息のまま、スカートのポケットに隠していたあるものを取り出す。

姿勢をまっすぐにして、彼女はそれを見た。ピンク色をした丸いカプセル状のものに、紐が付いている。その紐の根元には、四角いスイッチらしきものがついていた。

どう見てもそれはローターだった。

凛子がこれを使い始めたのは、一か月ほど前のことだった。指での自慰に少し飽きを感じてきた頃、インターネットでこのようなものがあると彼女は知った。

興味本位で売っている場所を調べ、どうやら安さがウリの量販店に置いてあるらしいことをつきとめた。

「十八歳未満立入禁止」と書かれた暖簾の向こうにそれはあり、手に取るのは少しためらわれた。ついこの前まで十八歳の高校生だったのだ、無理もなかった。

意を決して暖簾の向こうに脚を踏み入れると、えげつない形のものから女性に手を取ってもらうことを意識した商品まで、大人のおもちゃと呼ばれるものがたくさん置いてあった。

その中から凛子はピンク色の小さめのローターを選ぶことにした。見本以外の商品自体は水色の包装紙で中身がわからないようにパッケージされており、レジに持って行く時も恥ずかしくなかったが、なんとなく他の客の視線が気になるような気がして、さっとお会計を済ませて店を後にした。

そのローターを、今凛子は使おうとしているのである。

じゅくじゅくに濡れ、期待するように充血した秘所に彼女はローターを当てた。処女の秘所にはそれですら大きめに感じられたが、凛子はローターを中に埋め込んでいく。

「ん、は、ぁうっ……見た目はあんなに小ちゃいのに、やっぱり中に入れるとおっきい……」

ちゅるんとローターが飲み込まれてしまうと、凛子はスイッチを手に取った。

スイッチをひねることで段階的に振動を強くできる仕組みのそれを、まず少しだけ動かしてみる。

「ひゃっ……中で動いてるっ」

お腹の中が震えるというのは、不思議な体験だった。肉芽への刺激ですっかり感じきっていた秘所は、その振動を快感と認識するまでそう長くはかからなかった。

「んんっ……気持ち良い……」

濡れているせいで、力を抜くとローターが出て行ってしまいそうに感じた凛子は、秘所に力を入れた。すると弱めの振動でも強く感じられて、またも彼女は息を荒くする。

「は、あ、うぅっ……」

中で達することもできるかもしれない、彼女はそう思った。

だが、今日は達せずともよいだろうとも考えていた。まだ遊びは始まったばかりなのだ。

凛子はローターを秘所に入れたまま、ふたたび肉芽に指を伸ばした。秘所への刺激は気持ち良いけれど、このまま終わらせて教室に帰るのはなんとなく物足りないと思ったのだった。

(もう一度だけ、イっちゃおう)

ローターのせいでしとどに濡れた秘所から滑った水を連れてきて、さっきイったばかりの肉芽に再度こすりつけた。一度イったせいで敏感になっている肉芽は、自慰の指を感じすぎてしまう。

「あっ、ん……ふ、指、すごいっ……」

人差し指は第二関節まで愛液でねっちょりと濡れていて、他の指、もっといえば右手全体が女の汁で湿っていた。その手を使って、もう一度凛子は達しようとしているのだ。

ローターが秘所の中で動く中、指の速度をだんだん速めていく。

最初に達した時より、今度の方が早く達することができそうだ。凛子は指を動かしながら、人づてに聞いた「連続イキ」というのもできるのではないかと感じていた。

何度も何度も絶頂に達することができたら、どれだけ心が満たされるだろうか。連続イキはおろかまだ処女である凛子にその想像はできなかったが、二度目の絶頂が彼女に襲いかかろうとしていた。

「い……くっ、気持ち良いっ、は、あぁっ……」

凛子はまた前かがみになって、指を懸命に動かした。今度は足に力が入って、個室のドアを蹴ってしまう形になる。

人差し指が肉芽を擦り、それが勢いあまって股座から飛び出した瞬間、凛子は二度目の絶頂を感じた。

「あぁっ……!」

肩で息をしながら、凛子はそっとローターの動きを止める。

男性には達した後すぐに賢者モードがあるというが、女にはないのだろうかと凛子は思っていた。自慰をしたあとは、なんとなく虚脱感が襲ってくる。これを賢者モードと呼ぶのなら、女にもそれはあるのかもしれないとぼんやり考えた。

トイレの個室を出ると、凛子は素早く手を洗って教室に戻った。

『孤高の秀才』が誰にも見せてはいけない、暇のつぶし方である。

 

翌日、授業の前の休憩の時間に、凛子の机の前にやってきた人物がいた。

身長のそう高くない男子生徒は、確か凛子の隣の席だ。

「上野さん、ちょっといい?」

「ええと……いいけど、名前……」

「ああ、なんで知ってるかって? 上野さん秀才だって有名人だからさ。俺? 俺は花村壱太。よろしく」

にっこりと微笑んで、壱太は手を差し伸べてきた。握手をしようというつもりらしい。

凛子は差し出された手に応えると、不思議そうに彼を見た。

「あの……花村くん? 何か私に用?」

「うん。あのさ、上野さん。今日お昼休みって誰かと一緒にご飯食べる予定ある?」

突拍子もない壱太の発言に、凛子は戸惑った。

(これは……ナンパというやつかしら?)

隣の席でずっと授業を一緒に受けているのだから、ナンパもなにもないような気がするが、凛子はそれぐらい戸惑っていた。

「特に用事はないし、一緒にご飯を食べる友達もいないけど……どうして?」

「少し話したいことがあるんだ。……って、友達がいないって自分で言っちゃうんだ、上野さんは。さすが『孤高の秀才』だね」

「うるさいわね。あと……と、友達になってくれるなら、『上野さん』じゃなくて『凛子』でいいわ」

凛子は人との距離の取り方をわかっていなかった。自分の周りにいる人間は敵か友達かで、その中間がない。これではもし現役で東大に入れていたとしても、大学入学後に相当苦労しただろう。

「うん、わかりました、凛子さん。じゃあ、俺のことも『壱太』でいいよ。お昼は二階の学生ラウンジで。凛子さんはお弁当派?」

「いつもパンだわ」

机の横にぶら下げたコンビニの袋を見て、壱太は頷いた。

「そういえばそうだったね。俺、いつも凛子さんのこと気にしてたから思い出した」

「いつも見てたって……壱太は変態?」

凛子は徹底的に人との距離の取り方を知らない。どの程度の関係かによって使う言葉を変えたほうが良いことも、よくわかっていなかった。

「変態って……ま、いいけど。じゃあ、お昼にね」

壱太が自分の席に戻っていくと、凛子は息を吐きながら天井を見上げた。家族以外の誰かと一緒にご飯を食べるなんて、いつ以来だろう。高校時代にはもうこのキャラが出来上がってしまっていたから、いつも一人で参考書を開きながら昼食を摂っていた。

(家族以外の人と一緒の食事の楽しさが、思い出せない)

凛子は天井から黒板の方に視線を戻しながらそう胸の中でつぶやき、次の授業の準備を始めた。

授業が始まってしまえば、お昼休みまではジェットコースターのように早かった。

今日はトイレに逃げ込んで自慰をすることもなく、凛子は真面目に授業を受けた。それもこれも、昼休みが密かに楽しみだったからだ。

楽しみを目の前にすれば、人はいくらでも頑張れる。まるで人参を目の前にぶら下げられた馬のようだが、凛子のそれもまた人らしい一面であることは間違いがなかった。

彼女は授業後の片付けを終えパンの袋を持つと、二階の学生ラウンジに向かう。そこにはすでに壱太がいて、凛子はどこに目を合わせたらいいのかわからないながらも、彼の前に座った。

凛子が誰かと一緒に──それも男と一緒にいるなんて初めてのことだったから、周りが少しどよめいたのを壱太は感じていた。それを凛子に伝えては酷だろうと思い、彼は凛子に微笑む。

「……なにかしら、笑っちゃって」

微笑んだ壱太に向かって、凛子は少しぶすっとした表情で答えた。

「いや、凛子さんてほんと、孤高の人だよなって」

「孤高? 馬鹿とは話したくないだけ」

「ふーん。俺と話してくれてるってことは、俺は認められてるってこと?」

そこを突かれるとは思っておらず、凛子は顔を真っ赤にした。

「誰も、あのクラスの人間を認めてないとは言ってないじゃない」

そう、凛子は予備校に通うライバルであり仲間であるクラスメイトたちを認めていないわけではなかった。皆目標に向かって一所懸命だし、真面目だ。ただ彼女は一度『孤高の存在』と思われてしまったせいで、誰も近寄り難くなり、結果的に一人になってしまったのだ。

高校時代はいろんな学力の人間がいたから、馬鹿にしていた生徒もいたけれど、今はそうではないと思っている。でも今更どうやって友達を作ったら良いのか、わからなくなっていた。

そこに現れたのが壱太だ。

「……一緒にご飯食べてくれて、ありがと」

「どういたしまして」

ぶすっとしたまま、凛子は壱太に礼を言った。

壱太は母親が作ってくれたというお弁当を食べながら、パンをかじる凛子を見た。

「凛子さんは、なんでいつもパンなの?」

聞いてはいけない質問だったかもしれないと思いつつ、壱太は問いを訂正しない。

「うーん、うちの人、みんな忙しいのよね。両親は私が起きる前に仕事に行っちゃうし。私もお弁当作ってる暇があったらその分勉強したいし。だからおのずと、コンビニでパン買うようになっちゃう」

凛子はその家庭環境に対して何も思うところはなかった。家族がそれぞれ全力で何かに取り組んでいる結果がこの状況なのであって、それは悪いことではない。

ただ、パンをかじりながら、凛子は母親が作ったというお弁当に胸が締め付けられるような気がしていた。

「壱太はお母さんに作ってもらったお弁当、美味しい?」

「ああ。たまにカバンの中で弁当箱が縦になっちゃって、中身が寄ってることがあるけどね」

「ふふ、そういうことあるんだ」

彼女はお弁当が縦になることの悲劇を知らなかった。今までずっと購買やコンビニの食事だったせいだが、それを知らないのは人によっては不幸と呼ぶのかもしれなかった。

「……それで、どうして私をお昼ご飯に誘ったの?」

コッペパンを食べ終わり、空いた袋を縛りながら、凛子は壱太に尋ねる。

「いや……凛子さんにひとつ確認したいことがあって」

「確認?」

おうむ返しにした後、壱太はしばらく喋らなかった。黙々と弁当を食べ、食べ終わると弁当箱を片付ける。袋に弁当箱をしまった後、壱太は一つ咳払いをして凛子の耳元に口を寄せた。

「凛子さん、この前授業中にオナニーしてたでしょ」

凛子はその言葉を聞いて固まった。体に稲妻が走ったと言っても良いかもしれない。

確かに日本史の授業がつまらなすぎてトイレに自慰をしに行ったことは確かだ。だがなぜ壱太にバレたのだろう?

もしバレたのが女子ならば、あのトイレに誰か入ってきたのかもしれないと予想がつく。でも、誰も入ってきた気配はしなかったし、そもそも男子である壱太がなぜ、と凛子は頭の中をぐるぐるさせた。

これはどんなに難しい数学の問題より難しく感じられた。壱太に告げられてからの一秒が永遠のように感じられ、冷や汗がどんどん出てくる。

「な、なんで? そんなことしてるわけ、な、ないじゃない」

凛子の態度は苦しかった。いっそ「していました」と開き直ったほうが堂々としていられたかもしれない。それぐらいしどろもどろになり、凛子は瞬きの回数を多くした。

それに対して落ち着いていたのは、壱太の方だった。

「凛子さん、昨日トイレから帰ってきた時、ポケットにローター入れてたでしょ」

「ろろろっ……」

確かに、自慰を終えた後、自分で使ったローターはスカートのポケットに入れた。だが誰にも見られていないはずだと思っていた。誰にも見られず、そっとカバンの中にしまって──。

(その瞬間だわ!)

凛子は壱太にローターを見られた瞬間に思い当たった。カバンは壱太の側にかけてある。

皆授業に集中しているから、誰も見ていないと思ったのに、思わぬ誤算だった。

「そそそ、それがどうしたのよ」

珍しく慌てふためく凛子に、壱太はにやりと笑った。

「別に、凛子さんもオナニーするんだなって」

「それを私に話して、何が目的?」

さっきまで友達ができたと思い込んでいた凛子は、今は敵を見るような目で壱太を見ている。

壱太はそんな凛子をいなすように、笑顔をくずさずに話し続けた。

「目的って……別に凛子さんを脅そうとかそういうつもりはないよ。ただ……」

「ただ?」

「凛子さんのオナニーに協力させてほしい」

「はぁ?!」

意味のわからない提案に、凛子は思わず大きな声を上げた。周囲が凛子の方を振り返る。ここで話を聞かれてはまずいと、彼女は声を潜めて壱太に話しかけた。

「協力って、どういうことよ」

「まあまあ、これを見て」

壱太は弁当箱をカバンにしまうかわりに、青い包装紙で包まれたものを取り出した。その包装紙には見覚えがある。凛子がローターを買ったあの量販店のものだ。

声をひそめたまま、壱太は青い包装紙を指差す。

「これ、ワイヤレスのローターなんだ」

「ワイヤレス?」

「うん。あ、ちゃんと抜きやすいように本体に紐はついてるけどね。強さの調節が、無線で調節できるってわけ」

そこまでの話から凛子は壱太の言いたいことを予想した。

「それで、私にそのワイヤレスのローターをつけさせて、あなたが強さを調整したいってことね?」

「ご名答、さすがは『孤高の秀才』」

「その二つ名やめなさいよ」

壱太の目は輝いていた。まるで、凛子がこれをつけることを拒むという選択肢を持っていないかのように。彼も彼でまた、どこか人間関係で躓きやすいところがあるのかもしれない。

凛子は唇を噛み締めて悩んだあと、青い包装紙の箱を左手で掴んだ。

「結局脅してるようなものじゃない」

「俺、凛子さんに憧れてたんだよ。お近づきになるチャンスはないかと思って……そしたらこんなチャンス、逃すわけないだろ?」

話の噛み合わない二人だったが、凛子が箱を持ったまま立ち上がったことで話が進展した。

「今から入れてくるから、ちょっと待ってなさいよね」

そう言って凛子は二階のトイレへ向かっていった。

個室に入ると、青い包装紙を破いていく。ぴったりに包装されているせいか、美しく包装紙を取ることは難しく、結局ビリビリに破いてしまうことになった。

中に入っていたのは凛子が持っているのとは違う黄色いローターだった。確かに本体部分と、リモコン部分が分けられている。凛子はリモコン部分にボタン電池を仕込み、スカートのポケットの中に入れた。これはあとで壱太に渡すものだ。

さて、残ったローターの本体を彼女はまじまじと見つめた。本体には秘部に入れても抜きやすいように紐がついている。まるでタンポンのようだと凛子は感じた。

問題はこれをどうやって入れるか、だ。処女の凛子には、濡れていない状態でローターを秘所に入れることなどできない。かといって渡されたセットにはローションは付いていない。

つまり、凛子は自力で濡らしてローターを中に入れなければならないのだ。

一瞬考えた後、彼女はこのまま戻るのも癪なような気がして便座に腰掛けた。足を少し広めに開いて、右の人差し指を舐める。これはいつもの自慰のパターンだ。

十分に指をねぶったら、肉芽に手をかける。肉芽はこれから壱太とするプレイと、ローターを見たドキドキで少し膨らんでいた。そのほうが好都合だが、凛子はドキドキしている自分に少しだけ嫌な感じがした。

だって、凛子と壱太は今日初めて話したのだ。長い間隣の席で、朝の挨拶ぐらいはするとはいえ、ちゃんと喋ったことなどない。それが、昨日自慰をしていたことがバレてこんな風になっている。脅されたわけではないが、完全に彼女の自由意志というわけでもないだろう。

(でも、私結構ノリノリでやってない……?)

彼女は自分の心の声に生唾を飲んだ。今日初めて話した人に指示されて、エッチないたずらをされようとしている。リモコンは彼の手に渡ってしまうのだ、どんな時に絶頂に達せられてしまうのかわからない。

その不安は、いつの間にか凛子の秘所を濡らす手助けをしていた。どくん、どくんと肉芽が脈打つのがわかる。それぐらい彼女はトイレの個室で興奮していた。

(私、変態なのかな……)

授業中に自慰をしに教室を抜け出す時点で相当な変態だ、と壱太に言われるかもしれない。いや、きっとそう思っているだろう。だからこんないたずらをしかけたのだ。

凛子はため息をひとつつくと、右手の人差し指で肉芽を触ってみた。

頭でぐるぐるとエッチなことを考えていたせいか、肉芽は先程よりもぷっくりと膨らんでいる。

「ん……っ。気持ち良い……」

とはいえ昼休みの学生ラウンジの階のトイレだ。誰が利用しにくるかわかったものではない。凛子は早くローターを秘所に入れて、壱太の待つラウンジに戻ろうとした。

ゆっくり、肉芽に当てた指先に力をいれる。秘所から染み出してきた湿り気ですでに濡れかかっていた肉芽は、指をちゅるんと逃して気持ち良いところに引っ掛けさせた。

「あっ、んんっ」

今の目的は、決して達することではない。達してしまったらやる気がなくなってしまいそうで、凛子はそこを履き違えないようにしようと努力した。何度か指を肉芽に押し当て、いたずらに弾くように触れる。胸の奥がジンジンとするような快感を覚えて、凛子は目をぎゅっと閉じた。

少し奥に触れると、そこはもうすでに湿っている。昨日使ったローターより少し大きめの黄色いワイヤレスローターを入れるには、もう少しだけ濡らしておいたほうが良いだろう。

なんたって、これだけ変態的なことをしておいて、凛子は処女なのだ。

処女の上に、友達がいない。初めてできた予備校の友達かと思われる男子生徒は、凛子にこんな変態的なお願いをしてきている。それに対して、乗っている彼女自身もいる。

おかしな状況に頭がクラクラしそうだったが、凛子は肉芽を触り続けた。今度は左手でローターを握り、秘所の薄い唇にすりすりと前後させてみる。

さすがににゅるっと入ったりはしなかったが、少し冷たいローターの感触が気持ちよくて、凛子は再び目を閉じた。

(これなら、入りそうかな)

彼女はローターの頭を持って、淫らな唇をかき分けた。その中に、頭を埋め込んでいく。

「んっ、く……」

流線型のフォルムをしたローターは、頭が入るとそのままの勢いで凛子の中に入ってしまった。抜くときに使う紐だけが、彼女の秘部からたらりと垂れている。

凛子は下腹部にある違和感に身悶えした。なんたって、昨日まで使っていたローターより大きい。処女膜が切れてしまうほどではないにせよ、少しのサイズの違いが大きな感覚の違いになったような気がした。

「ふぅ……とりあえず、立ってみるかしら」

凛子は立ち上がり、ショーツを履く。立ち上がった瞬間、ローターがさらに中に入ったような気がして、彼女は一瞬息を飲んだ。

「っ……!」

しかし慣れればどうということもない。血を吸わないタンポンだと思えばなんてことない、と自分に言い聞かせ、凛子はトイレを後にした。

学生ラウンジに戻ってくると、壱太はさっきいた場所から動かずに凛子を待っていた。凛子は彼の目の前の席に腰を下ろすと、スカートのポケットをごそごそと探る。四角いものを探り当てると、壱太に手渡した。

「はい、これ。……これがリモコンなんでしょ」

「ありがとう。電池は?」

「入れておいたわよ」

壱太に手渡す瞬間が、凛子が一番緊張した瞬間だった。これから、この男に自分の自慰するところを預けてしまう。自分の快感は、すべて壱太に握られているのだ。どんな瞬間に感じ、どんな瞬間に達するのかも。

「……本当にやるの?」

凛子は怖くなって、壱太に尋ねた。

対する壱太は、にやりと笑ってリモコンを握り直す。

「大丈夫、悪いようにはしないから」

悪いようにしそうにしか見えない笑顔が、凛子に向けられた。

 

この日の午後の授業は英語を残すのみだった。

凛子は体内にローターを仕込んだまま、授業を受けている。その隣には壱太が席に座っていて、凛子と同じかそれ以上に真剣な眼差しで授業に臨んでいる。

彼がローターを動かすつもりはなさそうだった。少なくとも、授業を真面目に聞いていればローターで遊んでいる暇なんてないだろうし、そんなことをしたら二人とも授業どころではなくなってしまうだろう。

だから大丈夫──授業時間が半分ほど終わったところで、凛子は安心しきっていた。

この英語の授業は、授業の前半に東大の入試に即した模擬問題を解き、後半でその解説をしていく。鈴木という講師の解説が的確で、人気の授業だった。

大問の二つ目にさしかかったところで、鈴木講師は生徒を指し答えを引き出していく。皆東大を目指して浪人しているのだから、難しい問題も難なく解くことができていた。

その問題の解説を鈴木講師がしているときだった。壱太がジーンズのポケットをごそごそと探り出す。彼が手にしていたのは、あのローターのリモコンだった。

真面目に授業を聞いていた凛子は、壱太がリモコンを取り出したことに気づかなかった。まっすぐ前を見据え、黒板に書かれた文の構造をノートに写しとっている。

凛子が最後の文字を書き終えようという瞬間、壱太がリモコンのボリュームを上げた。

「ひゃああっ!」

彼女の体の中が一気に震えて、凛子は思わず声を上げた。それもそのはず、全く予想していなかったのである。いたずらを仕掛けるにしても、授業が終わった後だと凛子は思っていた。その勝手な思い込みのせいで、教室じゅうに素っ頓狂な凛子の声が響き渡る。

講師の鈴木が凛子の方を見て、心配そうに声をかけた。

「どうしました、上野さん?」

凛子はどのようにこの場をやり過ごそうか考えた。体の中ではまだローターが動いている。喋るにしても、しどろもどろになってしまいそうだった。

「えっと、あの……髪の毛が背中に入ってしまいまして、……その、くすぐったくて、つい声を……」

顔を真っ赤にしながら答えた凛子に、鈴木は優しく微笑んだ。まさか目の前の生徒が秘所にローターを仕込んだまま授業に出ているとは思ってもいないだろう。

「『孤高の秀才』も可愛い声を出すんですね。……じゃあ、次の問題に行きましょう」

鈴木講師は問題の解説に戻っていく。凛子はため息をついて、自分のノートを見た。いきなりの衝撃に手元が狂って、最後の文字がぐちゃっとなっている。

それもこれも、隣に座っている壱太のせいだ。凛子は恨めしそうな目で壱太を見た。

だが彼は一向に意に介さないように、まっすぐ黒板を見ている。まるで凛子の身体の変化など興味がなさそうに。

きっと興味がないわけではなかったが、今目を合わすと怒られそうな気がして彼女の方を向けなかったのだろう。その証拠に、凛子が授業に集中しようとし出すとまたリモコンのボリュームを上げてくる。

「……っ、ん……っ」

凛子は声にならない声で快感に抗った。自分がいたずらされていることは、壱太を除く他のだれにも気づかれてはならない。もっと言えば、反応して壱太を喜ばせるようなことはしてはならない。

凛子はトイレに行ってローターを外してこようかとも考えたが、自分の余計なプライドが邪魔をしてそれもできなかった。『孤高の秀才』がこんなことで折れてどうするのだ、という意味不明なプライドだった。

お腹の中で震えるローターは、振動に種類があるのか、強くなったり弱くなったりを繰り返していた。最初は壱太が手動で強さを変えているのかと思ったが、彼の手元を見る限り操作はしていなさそうだ。ローターの振動は弱くなれば授業に集中できるのだが、強くなるとそちらに意識が引っ張られる。特に、頭の部分が女の弱いところを叩いているようで、強い振動になると声を出してしまいそうなほど気持ち良かった。

(やだ、私……授業中に気持ち良くなってる)

今が授業中だという背徳感もあって、凛子はどんどん濡れてきていた。蜜壺から溢れ出した愛液は、凛子のショーツをびっしょりぬらしている。まるでおねしょをしたかのように、びしょびしょになっていた。

いたずらをして知らんぷりな壱太に腹が立ったが、気持ち良さには抗えなかった。授業の最後の方になるともう頭がぼんやりとしてくる。

そんなときに、講師の鈴木に凛子は当てられた。本当は正解していた問題だったが、うまく答えられそうになくて凛子は自信無げに答えた。

「……わ、わかりません」

「珍しいですね。ここは……」

今彼女は英語の授業どころではないのだ。はやくこの快感をどうにかしたい。達せるものなら達してしまいたい。授業が終わり次第、トイレに駆け込んでローターを抜いてしまいたい。

そう思っていた矢先、壱太と目があった。彼は人の悪い笑みを浮かべて、片手で「ごめん」と凛子に謝ってくる。ごめんで済む話ではなく、彼女は息を荒くして壱太を睨んだ。

睨んだせいなのか、壱太は彼女が達したがっていると思ってしまったらしかった。手元にあるボリュームを最大にして、遠隔操作で凛子の中をぐちゅぐちゅに搔き回す。

ボリュームを最大にすると、ヴィーン、というモーターの振動音が外にまで聞こえてきてしまった。凛子はどうか誰にもバレませんように、と心の中で願う。

凛子の前にいた女子生徒が、音に気がついて凛子の方を振り返った。

「携帯なってるの、上野さん? 電話かな、大丈夫かな」

どうやら女子生徒はモーター音を携帯のバイブレーションと間違えたようだった。凛子は冷や汗をかきながら、首を横に振る。

「い、いいえ……私じゃないわ。誰かしらね」

女子生徒が前を向くと、凛子は机に突っ伏した。これ以上の快感には耐えられない。

(イっちゃう……私、イっちゃうっ……)

相変わらずローターは不規則な動きをしていて、凛子の弱い部分を刺激した。最大のボリュームになったせいで秘所全体が震わされているようで、奥まで感じ始めている。

(私、処女なのに……いたずらされてローターでイっちゃいそうになってる)

辱めを受けているような気分にすらなってきて、凛子は突っ伏したまま歯を食いしばった。その様子を隣で壱太が見つめている。

「ノートはちゃんと取っといてあげるからさ」

そんな、どうでもいいことを彼女に耳打ちしながら。

不規則な強い振動が三回ヴ、ヴ、ヴと体を打ち、最後に長く強い振動が凛子を襲った時、彼女は我慢の限界になり達してしまった。

声こそ出さなかったが、息を長く強く吐いて、凛子は机にしがみついた。

「……っ!」

その瞬間、予備校のチャイムが鳴った。授業時間が終わったのだ。凛子は他の生徒が肩の力を抜くのと同時に、体の力を抜いた。

生徒たちがチャイムと同時に帰り支度をする中、壱太はようやくローターのスイッチを切ってくれた。

「……どうしてくれるのよ」

凛子が開口一番壱太に言ったのは、怒りの言葉だった。

「ちゃんとノートは取ってあるって」

「そういうことじゃなくて」

「……じゃあ、どういうこと? もしかして、やっぱりあのときイっちゃってたの?」

やっぱりという言葉を使った壱太は、見ていたのだ。凛子が授業中に机で達してしまったときのことを。

「う……うるさいわね。いたずらに付き合ってあげたんだから、いいでしょ」

「そんなこと言って、そのままでいいの?」

そのままで、と言った壱太の目線は、凛子のスカートに向いていた。

「パンツ、ぐちゅぐちゅなんじゃない? イっちゃったなら」

「う、うぅっ……」

返す言葉もなく、凛子は顔を手で覆った。恥ずかしくてたまらない。昨日トイレで自慰をしていたのがバレていただけでなく、今日その男に辱められているなんて。

「ごめんね、凛子さん」

優しげに聞こえる壱太の声も、今は恥ずかしいだけだった。

彼は何度かごめんと言うと、顔を覆ったままの凛子の手を取って教室を出て行く。

予備校のスタッフしか立ち入りを許可されていない扉を開けて、凛子の手を引いたまま階段をすたすたと降りていく。

気づけば、凛子は見たこともない部屋に連れてこられていた。

 

「ここ、教科書とか教材の倉庫。誰もこないはずだから」

通されたのは、薄暗い倉庫だった。教科書や参考書がうず高く積まれているから、紙とインクの匂いがする。壱太が凛子を連れてきたのには、意味があった。

「まさかイっちゃうとは思わなくて、ごめん。泣きたいんだったら、泣いていいよ」

壱太もさすがにやりすぎたと思ったらしく、泣き場所を提供してくれたのだ。この場所は現役合格して予備校でバイトをしている友人から聞いたらしい。ほとんど人が来ないから、一人になりたいときは使っていいよと壱太は言われていた。

凛子は座り込もうかと思ったが、まずはローターを取り外そうと立ったままでショーツを下ろした。右手で秘部に手をかけると、紐を引っ張ってローターを取り外す。

「……っ」

黄色いローターには白く濁った愛液がべっとりとついていた。人によってはこれを本気汁というらしい、ということは凛子もよく知っている。

「これ、返す」

凛子はローターを壱太の手に置き、教科書の積まれている棚に体を預けた。荒い息は収まっていたが、顔はまだほんのり上気している。

「……泣かないの?」

「泣かないわよ。こんなことぐらいで、泣いてたまるもんですか」

凛子のプライドは高かった。こんなことぐらいではないはずなのに、未だに強がっている。強がりも度が過ぎて、今度はこんなことを言ってしまった。

「壱太こそ、私のイク姿みて興奮したんじゃない? アソコ、大きくなってるわよ」

凛子が指差したのは、壱太の下半身だった。ジーンズ越しに分かるほど、そこは誇張している。

「あっ、こ、これはその……」

「人にいたずらしておいて、興奮してたのね、変態」

授業中にイってしまった自分も相当な変態だと思いながらも、凛子は壱太をなじった。なじらないとやってられない気分でもあった。

「……ごめんなさい、凛子さん。俺、凛子さんが感じてるの見て、興奮して……」

対する壱太は、なじられたこともあって少し膨らみが小さくなったような気がした。実際、そんな急に小さくなることはないだろうから、あくまで『気がする』程度なのかもしれないが。

「……じゃあ」

凛子は次の言葉を探した。壱太を変態となじる自分も好きものの変態で、お互い様だ。だったらすることは一つしかないような気がして、彼女は壱太の顎を掴んだ。

ぶちゅっ、という音がする不器用なキスだった。

「だったら、最後までしましょうよ」

この言葉に驚いたのは壱太だった。まさか彼女がそんな風に考えていたとは思えず、あっけにとられた表情をしていた。

「最後まで……って、凛子さん、経験あるの?」

唇を離すと、驚いた様子で壱太が答える。

「ないわよ」

きっぱりと答えたのは凛子だった。

友達のいない凛子には、もちろん交際したことのある人もいない。誰かに流れで体を預けたこともないから、完全に処女だった。それでもなぜか、凛子は堂々としていた。

それに対して壱太は、急にドキマギしだす。

「俺、童貞なんだけど……」

「誰だって最初はそうよ。童貞に処女の組み合わせ? いいじゃない」

開き直ったかのような凛子に、壱太は意を決したようだった。もう一度凛子の唇に自分の唇を重ねる。今度は凛子がしたのとは真逆の、優しいキスだった。

唇をゆっくり重ねて、彼はそれから少しだけ口を開く。壱太の唇が凛子の下唇を捉え、はむはむと挟んだ。それにつられて凛子の口が開くと、壱太はその中に舌をねじ込んだ。

「ん……っ、上手、じゃない……初めてに、しては」

「凛子さんこそ、初めてじゃないような口ぶりだ」

温かい舌と舌が、しっとりと絡みあう。初めて同士のキスはお互いの評価の割には下手で、口の周りが唾液でベトベトになってしまっていた。

壱太の体に凛子がすがりつくような形で体を寄せる。壱太は凛子の着ていた長袖のカットソーを下からたくし上げて、彼女の胸を露わにした。

「……濡れてるのに、胸への愛撫は必要?」

急かす凛子に、壱太は微笑んで見せた。

「せっかくだから、おっぱいも触らせて欲しいんだ」

露わにされた凛子のブラジャーは、薄いピンク色をしていた。そこまで大きくないが小さすぎることもなく、壱太の手にちょうど収まりそうなサイズである。

彼はブラジャーのカップを手前に倒して、凛子の乳首を見た。薄桃色で、誰も触れたことのないそこはまだ勃ち上がっていない。壱太は恐る恐る指を伸ばして、両手で両方の乳首をつまんでみた。

「……んっ」

壱太は一瞬、力の加減を間違えたかと不安になった。だが凛子の表情を見るに、そういうわけでもないようだ。

「凛子さん、気持ち良い?」

「……悪くないわね」

その言葉に気を良くした壱太は、くにくにと乳首をいじって遊んだ。男の肌にはないすべすべとした感じ、その上にコリコリとした乳首があって、壱太には興味深く感じられる。

「ねえ、凛子さん」

「な、何」

「『凛』っていう字の本来の意味、知ってる?」

乳首をいじくりまわしながら、壱太は尋ねてみた。博学な凛子だったが、その意味はわからず、首を横に振る。

「『凛』って字はね、もともと男性器がギンギンに勃ってる状態を指すんだって。それが転じて、今の意味になった」

意味を聞かされて、凛子は顔をかっと熱くした。それが面白かったのか、壱太は乳首を口につけながら話を続ける。

「凛子さんの今のおっぱいは、元々の意味に近いことになってるね」

片方の乳首をちゅうちゅうと吸い、空いたもう片方を指でこねくり回す。凛子はローターで参ってしまっていたのに、乳首への愛撫でまた気持ち良くなり始めていた。

「ば、ばか……そんなこと言わないでよ」

「あ、また硬くなった」

凛子の乳首は完全に硬くなって、ツンとまっすぐ前ならえをしているようになっていた。

「気持ち良いなら素直にそう言えば良いのに」

「……気持ち、良いわよ」

そう言った瞬間、壱太が凛子の乳首を甘噛みした。

「ひゃあぁうんっ」

「へえ、凛子さん噛まれるの好きなんだ」

「す、好きとかじゃ……」

ちゅうちゅうと乳首を吸いながら、壱太が言葉で攻めてくる。かと思えば、彼は優しげな声で次の言葉を紡いだ。

「好き、といえばね。俺、凛子さんが好きだったんだ。喋ったことなんてほとんどなかったけど、一目惚れっていうのかな。意志の強そうな目をして、周りを寄せ付けない凛子さんが、いつの間にか好きになってたんだ」

「え……?」

突然の告白に、凛子は戸惑った。壱太のこれはいたずらに過ぎないと思っていたし、いたずらをされたのは弱みを握られたからだと思っていたから、まさか彼の口から好きなんて言葉が出るとは全く予想していなかった。

「凛子さんと話すチャンスを、ずっと探ってた。実はね、量販店で凛子さんがローター買うところ、見てたんだ。たまたま別の用事で俺も量販店に行ってて。家で使うのかなって思ってたら、それを予備校に持ってきちゃうじゃない」

「そ、それは……」

「意志が強くてお堅そうなのに、大胆なところがあるんだなって思って、気付いたら声をかけてた。いたずらは、出来心だったんだ。ほんとごめん」

「……いたずらは構わないわよ、別に。私も案外ノリノリでやってたし。イカされるとは思ってなかったけど」

乳首から口を離した壱太と、凛子は目があった。好きだと告白されてすぐに目が合うのは、なんだか気恥ずかしい。

「好きなら、最後までするでしょ?」

誘うように言ったのは、凛子の方だった。

「いいの? 凛子さん処女でしょ」

「いいわよ。私の処女ぐらい、あなたにあげる」

「ぐらいって……」

そう言うと、凛子はスカートをめくり上げて見せた。うっすらと黒い茂みのあるそこは、湿り気のせいか蒸気が上っているように見える。

ごくり、と壱太が生唾を飲んだ。そしてそそくさとジーンズの尻のポケットから財布を取り出すと、その中に入っているコンドームを引っ張り出す。

そんなところに用意しているとは思わず、凛子は笑い出した。

「壱太、そんなところにゴム入れてるの? いつでもできるように?」

「笑わないでよ。男ってそういうものなんだから」

壱太がゴムを取り出している間、凛子は「そんなところにコンドームを入れておくと物に傷がついて使えなくなるわよ」などとどうでも良いことを言っていた。

壱太の方といえば、ジーンズを膝まで下ろして自分の逸物を晒すと、そこにコンドームをはめようとしていた。初めてのことだからうまくいかなくて、何度も竿を手が往復する。その様子にせっかちな凛子は苛立ちを覚え、気づけば自分の手を壱太のモノに添えていた。

「もう、早くしなさいよね」

「ごめん……」

二人の手でゆっくりと下ろされたコンドームは、壱太のモノにぴったりとフィットしていた。これからついに挿入するのだと思うと、二人のドキドキは最高潮に達する。

「凛子さん、……い、挿れるよ」

「どこからでもかかってきなさい」

少し的外れな返答をした後で、凛子は床に寝っ転がって足を広げた。広げた足の間には、ぬらぬらと濡れ光る秘所がある。濡れすぎて太ももまでベトベトになったそこに、壱太が触れると、凛子にも緊張が伝わった。

「じゃあ……いきます」

壱太が左手を肉棒に添えて、凛子の秘所にあてがった。ローターが入っていたから少し口が開いているが、男を受け入れるにはまだ小さすぎる。何度か壱太が表面を往復して、その何度目かで入り口に彼のものがゆっくり入った。

「いっ……」

凛子は痛いと言おうとして、口を止めた。彼女のプライドが「痛い」などと言わせなかった。対して優しい壱太は、彼女を気遣うように凛子の髪を撫でる。

「凛子さん、痛いって言っても良いんだよ?」

「嫌よ。これぐらいで痛がってどうするの……って、っく、うぅ……」

痛がることを拒否するなら、と壱太がさらに中に入ると、凛子の足に力が入った。これでは奥に進もうにも進むことができない。凛子は壱太に何度も「大丈夫」と言ったが、その言葉とは裏腹に体はどんどん力が入ってしまっていた。

「凛子さん、力抜いて」

「抜いてって、どうやって……っつ……」

初めての痛みにすっかり参ってしまった凛子は、体から力を抜く方法をすっかり忘れてしまったようだった。ついでに呼吸の仕方も忘れたのか、息も浅くなっている。

「凛子さん、息をゆっくり吐いて。ふーって」

「ふ、ふー?」

壱太の促しにより、凛子は体に溜まっていた息を全部吐き出した。すると体の力も自然と抜け、ガチガチに固まっていた体は少しだけ柔らかさを取り戻した。足もまだ完全には脱力しきれていないが、これぐらいなら奥に進むにも問題ないだろう。

壱太はそう判断し、肉棒をさらに奥にねじ込んだ。ゆっくり、ゆっくりと腰を進めていく。途中、少し狭いところがあったが、彼はそれを凛子の処女膜だと感じた。それを無理やりこじ開けて、肉棒は一番奥まで到達した。

「凛子さん、全部入ったよ」

「う……全部入ったの?」

壱太の全てがおさまる頃には、凛子は泣きそうになっていた。まさか初めてがこんなに痛いなんて知らなかった。彼女に友達がいたら、その情報を手に入れていただろうか。

「まだ動かないから安心して」

「うん」

凛子の秘所からは、特に血が出ている様子は見受けられなかった。ローターで遊んでいたせいだろうか、実はそんなに体に無理はかかっていなかったらしい。

凛子が呼吸を整えるために深呼吸を何度かすると、彼女の表情がふと和らいだ。壱太と目が合うと、これまで見たことのないような笑顔を見せる。

「壱太、動いて良いわよ」

「え、でも……」

「私が良いって言ってるから良いのよ。壱太も気持ち良くなりたいでしょ?」

その笑顔に、壱太はころりとやられてしまった。奥まで打ち付けた腰をゆっくりと引く。引く瞬間に一瞬凛子の表情が曇ったが、お構いなしにカリの部分まで肉棒を引き抜いた。

「じゃあ、動くよ凛子さん」

「かかってきなさい」

壱太の抽送は控えめだった。凛子を気遣ってか、ゆっくりとしか動かない。それを何度か繰り返していると、凛子の方から少しずつ甘い声が漏れ始めた。

「ん……っく、は……あう……」

「気持ち良いの?」

あえて聞く必要もなかったが、壱太は凛子にそう尋ねた。凛子は手を伸ばして、壱太の腰のあたりで何かをねだっている。壱太が彼女の願いが手をつなぐことだと気づくには、少し時間がかかった。

二人が手をつなぐと、凛子も腰を動かし始めた。さっきまで処女だったのに、気持ち良くなるのが早いような気が彼女自身もしていた。おそらくそれは、自分で開発していたおかげだと凛子は考える。

「凛子さん、エッチい」

「……誰かさんのローターで授業中に中イキさせられてたからね」

恥ずかしくも授業中に中イキしていたことを武器にとった凛子は、腰を甘く動かした。その動きはまるで男を喰らい尽くす毒ヘビのようでもあった。

「壱太、気持ち良い?」

「めっちゃ良い。凛子さんの中、あったかいしぬるぬるしてるし、最高」

最高と言われて喜ばない女がいないだろうか。凛子も多分にもれず、自分を好いてくれている男に気持ち良いと言ってもらえて内心嬉しくなっていた。その気持ちを表情に出そうか迷っていたが、その迷いは壱太に見破られた。

「凛子さん、嬉しいならそういう顔していいんだよ。いつまでも一人で『孤高の秀才』を演じなくてもいいんだよ。俺たち同じ目標に向かって進む仲間だろ。もっと表情見せてよ」

「う、嬉しいなんて……」

戸惑う言葉とは反対に、凛子の頬は緩んでいた。こんな風に笑ったのはいつ以来だろう。友達を作らなくなってから、笑ったことなんてない気がする。その微笑みに、壱太は満足した。腰を動かしながら、喜びで泣きそうな顔をする。

「俺、好きな女の子の初めてがもらえて、しかも俺が笑わせられたんだなあ。それってすごく幸せなことだよ。凛子さん、好き。すごく好き」

「壱太、なんで泣きそうなの?」

人の機微がわからない凛子には、壱太の表情の意味がわからなかった。だが、壱太はそれを説明しようとはしなかった。

「人が嬉しいときに泣きそうになってる意味は、凛子さんがこれから見つけて行ってよ」

「これから……?」

「俺と一緒に頑張って、東大入って、一緒に大学生活を送りながら知って行ってよ」

ここまで言われて、やっと凛子は気がついた。壱太が凛子を本当に好きだということが。

「壱太、あなた私のことが好きなのね」

「さっきからそう言ってるでしょ」

男の純情が伝わっていなかったことに脱力した笑いを見せた壱太だったが、腰を強く動かしだすことで凛子に思いを伝えようとしていた。

「凛子さん、俺、最後までしていい?」

「っく……あ、コンドームもしてるし、最後まで中でしていいわよ……っ、あ、ん」

何度か浅く抽送をして、それから凛子の一番奥を何度か叩くと、壱太はあっけなく果てた。凛子はゴム越しに伝わる壱太のモノの脈動を感じながら、不思議なぐらい笑っていた。

 

二人で荒い息を整えながら、凛子と壱太は声を出して笑った。

「凛子さん、俺、もっとしたい」

「ふふ、なにそれ。一回じゃ満足できないの?」

「男子浪人生の性欲を考えてよ」

壱太のモノは今は力なくうなだれているが、すぐに硬さを取り戻しそうな勢いがある。

「うーん、でも私、ここは床が固くて嫌」

「それもそうだ。俺たちの荷物も教室に置きっぱなしだし、荷物を取って外に出ようか」

乱れた服を直しながら、凛子は壱太に優しくキスをした。初めてのキスとは違う、柔らかく触れるようなキスだ。

「私ね、『孤高の秀才』なんて呼ばれるの、嫌だったの。そこから引き摺り下ろしてくれた壱太に、感謝するわ」

感謝の言葉とともに見えた満開の笑顔に、顔を真っ赤にしたのは壱太の方だった。

「凛子さん、凛子さんは笑った方が絶対かわいいよ! あ、でも俺だけのものでいてほしいような……いや、でも皆と交流した方が……」

あれこれ悩む壱太が聞いていたかどうかはわからないが、凛子は小さな声でこう言った。

「私は去年と違う私で、東大に挑戦する。うまくいきますように」